2016年05月28日

母の死とプラーナ 〜末期癌の症例報告O〜


「たまに“死臭”がする」妹から報告がありました

経験豊富なベテラン看護師が、母から酪酸系の匂いを嗅ぎ取ったようです。
母の体内の微生物が、宿主の体を崩壊させている・・・
この報告は、母の死が避けられないものであり、余命が残り少ないことを意味するものでした。

目覚めて水分を補給する以外は寝てばかりの状態のようです。睡眠中呼吸の止まっていることもままあるのは、あきらかに身体の機能障害が進んでいる厳しい状態を表します。たまに見当識障害もみられるようです。

もしもの事態が起きても、栄養補給や延命治療等は行わず自然の摂理に任せるよう、妹と方針を再確認しました。

大晦日を迎えました。
名寄〜旭川間 片道80Kmの道のりを、孫の世話をするため20年間、車で往復し続けた母の愛すべき孫たちがやってきした。小学6年生の孫は、「おばあちゃんと一緒に暮らしたいから名寄に転校させてほしい」と本気で親に懇願したほど、根っからのおばあちゃん子です。

彼の存在は、母が自分は必要とされている存在であるという、人間にとって、生存本能より大切な“所属の本能”を満足させてくれました。「孤独」は人の心をむしばみます。わけもない不安感に常に悩まされます。人間にとって自分の居場所があり、自分の役割があることは、精神と魂の健康に不可欠な要素です。孫の存在は、母のケアにとても重要な役割を果たしてくれました。

母の傍で、母の話を傾聴し、共感、支持する嫁たち。職場でのエピソードや人生相談をする孫たち。他愛もない会話ですが、それは母の介護が、妹を中心とした家族全員が、自分の個性とスキルを最大限生かしたチーム医療であったことを意味するものです。

孫たちの手を握り、目に輝きを取り戻した母は、なんと自ら“鶏の素揚げ”と“年越しそば”を口にしたそうです。
posted by かず at 08:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 大村長生館の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月21日

母の死とプラーナ〜末期癌の症例報告N〜


“おとうさんを許します”

妹の報告では、母はその日から毎日、指折り数えながら100回その言葉を唱えたそうです。

正直、母が毎日“おとうさんを許します”と言えるとは思いませんでした。
しかし言葉は言霊です。一度それを言葉にするだけで、“否定”の方向ばかりに向けられていた心の舵を、ほんの少し“肯定”の方向に向けることが出来ます。

宇宙は統一性を持つと言われます。
こうした調和に必要なのは”肯定”なのかもしれません。もしそうなら”否定”は“宇宙の法則”に反する行動です。だから否定の言葉や行動の先には、“苦”が待っていると考えることはできないでしょうか。

臨床家の立場から見て、憎しみや怒りの感情は身体にとって何の役にも立ちません。むしろ自分の身体と心をひどく傷つけ、エネルギーを消耗してしまうだけです。
つまり他者のために許すのではなく、自分のために許すことが必要なのです。

イエス・キリストは「赦しなさい」と説いたそうです。
「赦す」という神の教えは、無益な争いを避ける平和主義、もしくは相手を気づかう博愛主義と長年思っていました。しかしそうではなく“許せない”という感情が、気づかぬうちに己を苛み、心の深層に生じたスピリチュアルペインを癒し、自分自身の魂を救うための精神療法であり、ひいては神という宇宙の法則に背かないための教えだったのかも・・・そんな解釈が脳裏を過りました。
posted by かず at 17:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 大村長生館の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月14日

母の死とプラーナ〜末期癌の症例報告M〜


“肯定の言葉を繰り返し発する”

臨床で、ネガティブな感情が身体や心の痛みを引き起こしている患者さんに使う、シンプルですが効果的な手法です。

トリックアートや手品を見ても分かるように、私たちの脳はけっこう騙されやすく出来ており、すぐに勘違いします。その特性を生かした方法が、肯定の言葉を毎日100回言うこと。

じゃ・・やってみようか。
いいかい・・・「おとうさんを許します」って言うんだ。

「なんでもいいから、おまじないだと思って言ってごらん」

許せない人を「許す」と言える人はめったにいません。「口が裂けても言いたくない」という方がほとんどです。

少し戸惑いの表情を見せた母ですが、ほどなく、か細い声で言いました

「・・・おとうさんを・・許します」

母は、自分をひどく傷つけた父を“許す”とはっきり言葉にしました。

「すごいね!お母さん♪」
「この調子で、おまじないだと思って毎日100回唱えてごらん」

「えっ100回も・・・・・分かったやってみる」

たとえ心で思っていなくても、言葉という形にして繰り返し発することにより、いつしか「許す」が潜在意識に入ります。そうすると交感神経のスイッチが切れるようになり、自然に無意識レベルの筋肉や軟部組織の緊張が緩むのです。

顎関節症で来院する患者さんの多くが、こうした緊張を抱えています。
眠っている状態でも、無意識に歯を食いしばっている方が少なくありません。ストレスとの戦うため無意識に全身の筋肉を緊張させているので、エネルギーを蓄えるどころか、むしろ消耗してしまいます。そして多くの方が“疲れが取れない”ことを訴えます。

闘争の状態からリラックスの状態へ無理やり切り替えてしまう。動物の生存本能である扁桃体の働きを、“意思”という高次能の舵でコントロールする・・・人間以外の動物には真似出来ない力技です。
posted by かず at 08:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 治療室天然物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月07日

母の死とプラーナ〜末期癌の症例報告L〜


母の存在意義をも否定したであろうマイナスのエネルギーを帯びた父の言霊により、スピリチュアルペインを抱えた母に、プラスのエネルギーを帯びた“ありがとう”の言霊が、果たして母を癒してくれるのか・・それははなはだ疑問でしたが、母のためにも父のために必要な心の栄養と思えました。

「お母さんには、お父さんの感謝の言葉が薬になるんだ。“お前のおかげで良い人生だった。ありがとう”って毎日言ってくれるかな」

「そんなこと言ったら、お前は死ぬと言っているようなものだから、元気をなくすんじゃないかな・・」と言いながらも、父は私の頼みを引き受けてくれました。

後日、それとなく母に聞いてみました。
「そういえば、今まで言ったことないようなこと・・・なんか言ってたみたい・・」

残念ながら父のストロークは、母の心の栄養にはならなかったようです。

たった一言が患者さんの症状を劇的に改善させることもあれば、悪化させることもあります。患者さんを勇気づける「大丈夫です。良くなりますよ」も、心から発する「大丈夫」と、口先だけの「大丈夫」では治療効果に差があることは、日々臨床の場で感じています。

父の「ありがとう」が母に届かなかったのは、母の耳が遠かったこと・・・もしくはこうした言葉に宿るエネルギーが足りない「ありがとう」だったと思われます。

大正生まれで頑固な父は、おそらく自我を変えられなかったのだと思います。意識が変わると魂レベルが上がるので、周囲からの見られ方が変わります。父に対する母の評価が変わらない現実は、父の意識が変わっていなかったことを示すものでした。

“心をこめて”の難しさを改めて感じたエピソードです。
posted by かず at 18:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 大村長生館の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする